症例6解説 症例:70代・男性 臨床所見:胸水貯留 採取部位:胸水 解答:⑤ 悪性中皮腫 細胞所見 リンパ球・マクロファージを背景に細胞質にやや厚みがあり大小不同を呈する細胞を孤立散在性ないし平面的な集塊として認める。核は類円形で中心性ないしやや偏在性で軽度の大小不同を認めるが、核形不整は目立たない。クロマチンは微細~細顆粒状で均一に分布し、明瞭な核小体を単個ないし複数個認める。また、多核細胞や相互封入像が目立つ。 胸水などの体腔液で異型細胞を認めた場合、一般的に最も出現頻度の高い腺癌、悪性中皮腫、扁平上皮癌が鑑別に挙げられる。腺癌では細胞配列の乱れが目立ち、集塊辺縁で核が細胞質に接する所見や核の突出像を認め、クロマチンの顆粒状増量および不均等分布、核の大小不同、切れ込みやしわなどの核形不整が目立つ。細胞質は泡沫状ないし空胞状を呈することが多いが、厚みが見られることもある。扁平上皮癌は同心円状あるいは層状と言われる構造を示す厚みのある細胞質、クロマチンの顆粒状増量および不均等分布が特徴である。本症例では、核所見が比較的均一で異型が強くない点で腺癌、扁平上皮癌を除外可能と考える。 出現している異型細胞が中皮細胞と推定できた場合、球状・乳頭状の重積性集塊が多数の場合は悪性中皮腫と診断することは比較的容易であるが、本症例のように孤立散在性ないし平面的な集塊で出現している場合は反応性中皮細胞と悪性中皮腫の鑑別が困難な場合も少なくない。両者の鑑別点は、多核細胞・相互封入像・collagenous stroma・オレンジG好性細胞などの出現頻度が反応性に比べて中皮腫の方が高い、事である。多核細胞については中皮細胞に占める割合が20%以上である場合、悪性の可能性が高いとされている。また、相互封入像については、一方の細胞の細胞質がこぶ状に突出する「hump様細胞質突起を有する鋳型細胞」(hump様細胞と略される事も多い)が目立つ場合は、悪性の可能性が高いとされている。本症例においてはいずれの所見も該当し、悪性中皮腫の可能性がかなり高いと考える事ができる。
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